2024/09/17 10:48
そんな俺に、奇跡のような出来事が起きたのは、ある秋の日のことだった。
その日、俺は推しアニメのコラボアクセサリーがアルテミスキングスで発売されるという噂を聞き、お店に足を運んだ。そこで出会ったのが、あのSSR級の美人店員、**由香里**だった。
彼女は一目で目を引くほどの美貌を持っていた。黒髪ロングに小顔、肌は透き通るように白く、165センチくらいのスラっとした体型。お洒落なカジュアルファッションが完璧に似合っていて、まるでファッション雑誌のモデルのようだった。俺はその美しさに圧倒され、しばらく彼女を直視できずにいた。結局、アクセサリーを買うという口実で、慌てて話しかけたが、緊張のせいでどもり気味だった。
「こ、これ、ください…」
彼女は優しく微笑みながら、「ありがとうございます!」と明るい声で対応してくれた。その笑顔に心が一瞬で奪われたのを覚えている。それ以来、俺は彼女に会いたい一心で、毎週末アルテミスキングスに通うようになった。
アクセサリーを買うという口実を使って、何度も店に通い続けた俺。最初は緊張してまともに話せなかったが、半年ほど通った頃には、彼女も俺を覚えてくれたようで、「いつもありがとうございます!」と名前を呼んでくれるようになった。その時の俺の嬉しさと言ったらなかった。由香里の笑顔を見るたびに、俺は心が癒され、彼女への想いが日に日に強くなっていった。
でも、俺のような中年オタクが、彼女のようなSSR級の美人と付き合うなんてあり得ないと思っていた。彼女と話せるだけで十分だ、そう自分に言い聞かせていたんだ。
そんな俺に、さらに驚くべき出来事が起こった。ある日、彼女が突然言った。
「今度、ロックバンドのライブに行くんですけど、もしよかったら一緒にどうですか?」
一瞬、耳を疑った。俺が彼女とライブに行く…?こんなことが本当に起きるのか?俺は動揺を隠しきれずに「は、はい!」と勢いよく返事をした。信じられない気持ちだったが、夢のような展開に胸が高鳴っていた。
ライブ当日、俺は普段とは全く違う自分を作り上げようとした。秋葉原では着ないような、少しカジュアルでお洒落なシャツを買い、髪型もできるだけ整えた。鏡を見ても、「これで大丈夫か…」と自問自答しながらも、気合を入れて会場に向かった。
会場に着くと、彼女はすでに来ていた。彼女は俺を見ると、ニコッと笑って「今日楽しみですね!」と明るく言った。その瞬間、俺の不安は吹き飛んだ。こんな美人と一緒にライブを楽しめるなんて、本当に夢のようだった。
しかし、俺の幸せは長く続かなかった。
ライブが始まる少し前、彼女は隣にいた男性を指さし、こう言った。
「彼、私の彼氏なんです。」
目の前が真っ白になった。彼氏?そんなこと聞いていなかった。しかも、その彼氏は、俺とは正反対のタイプだった。背が高く、整った顔立ち、髪も長く、見た目もバッチリ決まったミュージシャン風の男だ。ギタリストらしく、腕にはタトゥーが入っている。俺は何も言えずに立ち尽くしていた。
彼女とその彼氏が楽しそうに話すのを横目で見ながら、俺はただ音楽に身を委ねた。でも心の中は、砕けたガラスのように粉々だった。
ライブが終わっても、俺はずっと落ち込んでいた。それでも、彼女との関係が切れるのが怖くて、俺は表面上は普通に接し続けた。
彼女と彼氏がうまくいっていないということを知ったのは、それから、しばらく後のことだった。彼氏とのすれ違いや仕事の悩みが原因で、喧嘩が増えているらしく、俺はその相談役を務めるようになった。
彼女の両親は数年前に事故で入院し、リハビリ生活を送っていた。彼女は昼間は店員、夜はバーで働いて医療費を捻出していた。彼氏はそのことを知っていたが、彼女は昼も夜も仕事だし、休みも介護で、すれ違いが多く、次第に二人の間に距離が生まれていった。結局、彼氏は彼女との行き違いに耐えきれず、別れを告げたらしい。
彼女は涙をこらえながら「もう別れたの」と
いう彼女の言葉を聞いたとき、俺は一瞬、言葉を失った。彼女の声は平静を装っていたが、どこか寂しさが滲んでいた。俺はどう反応していいのか分からず、ただ「そっか…」とだけ言った。
彼女はしばらく無言で、遠くを見つめていた。俺はそんな彼女に何かしてあげたくて、でもどうしていいのか分からなかった。無力感に押しつぶされそうだった。彼女の隣でいるだけの俺は、何もできない自分を痛感した。
「タケル君、ありがとうね、いつも話を聞いてくれて。君は本当に優しいね。」
彼女がふいに笑顔を見せたが、その笑顔は少し疲れて見えた。俺はその瞬間、もっと彼女を支えたい、そばにいたいという気持ちが込み上げてきた。だが、俺が彼女にしてあげられることは、ただ話を聞くことくらいだと思い込んでいた。